「人間関係に恵まれるのは運しだい」は大間違い

やがて少年たちは大人になり、多様な職業に就き、結婚して家族をもったあとも調査は続けられました(離婚したり、独身を続けたりする人もいます)。84%の被験者が調査を継続しているというのは驚異的です。

配偶者や子どもたちも同意を得て調査対象者に加えられましたが、その割合も67%、こちらも驚異的な高さです。きっと調査が彼らの人生を振り返る機会になっているからでしょう。

被験者のなかには社会的に成功した人も、しなかった人もいます。経済的に恵まれた人も恵まれなかった人もいます。

しかし彼らのほとんどは70代、80代になった現在、「人生でもっとも大切なのは家族と友人との人間関係だ」と繰り返し述べていました。

私たちはとかく、人間関係に恵まれるかどうかは相手しだい、どんな相手に出会うかは運しだい、相手しだいと考えがちで、仕事や経済的成功のように、自分が努力して手に入れるべきものだと考えていない傾向があります。

しかし、この調査からわかるのは、よい人間関係を手に入れるには利他的行動が必要で、そのための努力に時間とエネルギーを投資しなければならないということです。

山あり谷ありを乗り越えたカップルが一番幸せ

これはハーバードの調査研究に限らず多くの人が実感しています。よい人間関係を手に入れるには「自分がしてもらいたいことを相手にする」というのが鉄則です。

相手の自分に対する関わり方は変えられませんが、自分が相手にどう関わるかは自分の意思です。よい人間関係という無形財産を形づくるには、自分からの働きかけが必要です。

たとえば、出会ったときに温かい笑顔で接する、無視したりバカにしたりしたような態度を取らずに丁寧な対応をする。ご無沙汰している知人や親類に電話をかけたり手紙やメールを出す、さりげない贈り物をする、手伝いを頼まれたら快く引き受ける……。

そんな小さな「与える」積み重ねが、よい人間関係をつくります。逆に、どんなにすばらしい人と出会っていたとしても、出会っただけでこちらが働きかけず、何も与えず、好意も見せなければ、相互の人間関係には発展しません。

このハーバード大学の研究調査では、配偶者と信頼関係を築いている被験者は、幸せに過ごしています。

夫婦の信頼関係は自然に得られるものではなく、ともに生活しながら、二人でつくり上げるものです。

多くの夫婦は長い間に、山あり谷ありのいろいろな状況に直面します。厳しい状況のなかで破綻する関係もありますが、相手を支え、協力して苦難を乗り越える過程で、お互いへの信頼関係を育てたカップルもいて、その人たちが一番幸福です。

腕でハートマークを表現するシニア夫婦
写真=iStock.com/ArNek2529
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